火とぼし山


    火とぼし山9


「私、手で温めながら歩いてきたの」
二人は、ならんでむすびを食べました。
「次郎さん。今、どんな仕事をしてい
るの」
「田んぼの草取りをしたり、畑で野菜
を作ったりしている。蚕も飼っている
よ」
「蚕を?」



「おらが働いている家では、蚕をたく
さん飼っている。桑の葉をつむのは、
おらの仕事なんだ。
きよちゃん。諏訪地方の養蚕は、誰が
始めたか知っている?」



「知っているわ。諏訪の神様と奥さま
が、始めたんでしょ。二人は、寒さに
強い桑の木をとりよせ、伊勢から技術
者をよんで、この地方に養蚕を広めた
んですってね」
「きよちゃん。よく知っているね」



「ばあちゃんから聞いたの。ばあちゃ
んの家でも、蚕を飼っているから」
「次郎さん。野良の仕事は、疲れるで
しょ」
「なれない仕事だから疲れるね。夜に
なると、体中が痛い」
次郎は、腕ををさすりながら、そうい
いました。


              つづく



信州の諏訪湖には、「火とぼし山」と
いう悲しい伝説があります。

「火とぼし山」は、その伝説をヒント
にして、みほようこが書いた物語。