愛犬りゅう「ばいばい、またね」


愛犬りゅう「ばいばい、またね」12


ぼくが「わん」と鳴いたのは、生後何ヶ月頃
だったのだろうか?
ほかの犬に比べると、遅かったような気がする。
あーちゃんの家には、こどもがいなかったので、
ぼくがこどものようなものだった。
だから、誰にもいじめられることがなかったし、
いじをやかされることもなかった。
だから、「わん」と鳴く必要がなかったのかも
しれない。



初めて「わん」と鳴いた日のことは、今でもはっ
きりおぼえている。
一月頃だったと思う。
その日は、春のような暖かな日だった。
ぼくはひなたぼっこをしているうちに、うとうと
と眠ってしまった。
「どすん」
近くで大きな音がした。
ぼくはびっくりして目をさました。
そして、「わっ」とさけんだ。



「何の音だろう?」
台所の方へ行ってみた。
すると・・・。
大きなガスボンベの横に、ガス屋のおじさんが立
っていた。
「ああ、びっくりした。なんだ、ガス屋のおじさ
んがボンベを持ってきたのか」
おじさんはあーちゃんに用事があるのか、背伸び
をして台所の窓から中をのぞいている。
ガスコンロの具合でも見ていたのだろうか?



「あーちゃんに用事があるなら声をかければ良いの
に」
「おじさんは何をしているのだろう?早くあーちゃ
んに知らせなくては・・・」
ぼくはあせった。
「わっ」
「わぁっ」
「わっー」
「わん」と鳴きたいけれど、うまく「わん」と鳴け
ない。あーちゃんは二階で仕事をしているのか、下
へおりてこない。



何度か「わっ」「わぁっ」とやっているうちに、や
っと「わん」と鳴けた。
おじさんはぼくの「わん」という声にびっくりして、
台所の中をのぞくのをやめた。
そして帰って行った。
おじさんはあーちゃんに用事がなかったのだろうか?


      つづく