赤い夕顔の花33
「奥がたさま」
「奥がたさまー。どこですか」
家臣が、遠くでお万をよんでいます。
でも、大声で返事をするわけにはい
きません。
「ここですよ。私たちは、ここにい
ますよ」
お万は、心の中で何度もさけびまし
た。
「幼いこどもをつれているから、遠
くへは行くまい。どこかにかくれて
いるのだろう。
早く三人をみつけろ」
近くで、兵士たちの声が聞こえまし
た。
お万と長五郎は、木のしげみにかく
れました。
「お母さま」
「長五郎。だいじょうぶですよ」
お万は、長五郎をぎゅっとだきしめ
ました。
つづく
「赤い夕顔の花」は、信州の南端
にあった「権現城」に伝わってい
る話をヒントにして、みほようこが
書いた物語。