明神さまの姿をみた少女


明神さまの姿をみた少女1


明神さまは、狩猟の神さま・農耕の神さま・風の
神さまともいわれ、大昔からずっと諏訪の地をお
さめてこられた、偉大な神さまでございます。



その明神さまへ、雨の日も風の日も雪の日も、一
日も休まずおまいりにくる心のやさしい少女がお
りました。
少女には、心を病んでいる兄がいました。
「兄ちゃんが一日も早く良くなりますように。兄
ちゃんが、心のやさしい、おだやかな人になれま
すように」
少女は、明神さまに毎日兄のことをお願いしてい
たのです。



少女が明神さまへ千回目のお参りに行った日。
ひとっこ一人いない静かな境内を、ぴゅーと心地
よい風が通りすぎていきました。
「なんて気持のよい風だこと」
少女がそうつぶやいた時、社の方からおごそかな
声が聞こえてきました。
「おまえは兄思いのやさしい少女じゃのー。兄の
病気はじきによくなるだろう。
いつまでも今のやさしい気持をわすれずに生きて
いくのじゃよ。わしは時々少年の姿になって、諏
訪の地をあちこちみて歩いているので、おまえの
ことも兄のこともよーく知っているぞ。
これからも兄と仲良くするのじゃよ」



その声は、いつかどこかで聞いたことがあるよう
な、なつかしい声でした。
少女は、少年の姿になっているという明神さまに
直接あい、病気の兄のことをお願いしたいと思い
ました。


                   つづく



童話「明神さまの姿をみた少女」は、みほようこ
の初めての童話集・「風の神様からのおくりもの」
に収録されています。




風の神様からのおくりもの―諏訪の童話

風の神様からのおくりもの―諏訪の童話