かきつばたになった少女


童話「かきつばたになった少女」は、みほようこ
の四冊目の童話集・「ライオンめざめる」に収録
されています。


   一部分を紹介します。


「かきつばた、ありがとう。きすげの花をみるこ
とができて、うれしいわ。もう何もおもいのこす
ことはない」
「おばさま、今日ね、霧が峰で山彦という少年に
会ったわ」
「えっ、山彦に?」
おばさまは、驚いたような顔をしました。



「おばさまは、山彦のことを知っているの?」
「ええ、よく知っていますよ。だって、山彦は私
が大好きだった人のこどもですもの」
「えっ?」

「少女の頃、私は霧が峰で人間の少年に会ったの。
そして、その少年と何度か会ううちに、おたがい
に好きになったわ。でも・・・今もそうだけれど、
人間の男性と女神は、結婚することは許されてい
なかったの。だから、私はその人と結婚すること
をあきらめたわ。でも・・・私はその人のことを
どうしても忘れることができなかった。だから、
誰とも結婚しなかったの。その人は、その後おさ
ななじみの人と結婚したわ。そして、生まれたの
が山彦。だから、山彦のことは、ずっと気になっ
ていたわ」



「そうだったのね。私何も知らなかった」
「この話は、今まで誰にもしたことがないの。あ
なたのおとうさまにもね。この話は、二人だけの
ひみつよ」
「おばさま、私はだれにもいわないわ。もちろん
おとうさまにも・・・」
おばさまは、若い頃の思い出をかきつばたに話し、
すっきりしたようでした。そして、きすげの花を
みたおばさまは、少し元気になりました。


「かきつばたになった少女」より



ライオンめざめる―風の神様からのおくりもの〈4〉 (風の神様からのおくりもの (4))

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